博多織企業「OKANO」-風を受けとめ、新たな風を起こす【福岡県伝統的工芸品の道】
2018年で誕生してから777年。通商産業大臣が指定する「伝統的工芸品」にも選出されている福岡県の「博多織」。
江戸時代には、筑前藩主・黒田長政が幕府に献上していたことから、代表的な織りの名前には「博多献上」と名前がついています。
福岡の魅力を発信する「もっと福岡」の記者として、「博多織」を取材をしないわけにはいかないと、満を持して博多織のメーカー「OKANO」さんへと訪れた私たち取材陣。
代表取締役社長:岡野 博一(おかの ひろかず)さんへと、お話を伺うことが出来ました。
岡野社長のこれまでの歩み
「博多織を残さないといけない。」という父の言葉に疑問
私自身は、23歳で起業し、博多織とは関係のない仕事をしていました。
私の父は、博多織の職人です。私は自分の会社を興してビジネスをしていたこともあり、博多織に関しては、経済的にはいつなくなってもおかしくない存在だと思っていました。
ですが父は『絶対に残さないといけない。』といつも私に言っていました。
あまりに熱心に言って聞かせるので『それはなぜなのか?』と自分の中で疑問が湧き、自分なりに徹底的に調べてみることにしました。
江戸時代から続く博多織の歴史には何があったのか?“存続するクリエイティブ”の理由はどこにあるのか?と。
“文化を売る”ことが必要だ
自分なりに調べるうちに、博多織のこと、日本の文化への理解が深まりました。
そして、日本もフランスやイタリアのように【文化を売る】ことをしないといけない。それに当たって、博多織もブランディングをしないといけないと思うようになっていきました。
中でも、日本がイタリアやフランスと違うのは、日本は天皇制でありずっと文化が繋がってきているということです。
海外だと、王朝が変わってしまえば以前の文化は白紙にしてしまうことが多いのですが、日本は1600年以上も繋がっていて、とても珍しい。
自分なりに理解した、日本人の誇りや伝統文化を続けていくことが使命だと思い、26歳で博多織の会社を買い上げて博多織の事業をスタートしました。
博多織の現状について
着物文化の衰退に追随している
日常着にしていた江戸時代では、着物は大きく2種類に分けられていました。「呉服」と「太物(ふともの)」です。
「呉服」とは、絹で出来た着物のこと。
「太物」とは、綿や麻など絹以外で出来た着物のことです。
「呉服」は主に階級の高い層に、「太物」は庶民に着られていました。
かつては「高級呉服売場」「実用呉服売場」と、種類によって販売の場所が分かれているくらい、日常で着物が着られていたんですね。
ですが現代では、みなさんもご存知の通り、着物は特別な日だけに着るのが一般的になりました。
晴れの日の成人式振袖は、着物マーケットでも需要が大きいですが、見た目もきらびやかな「西陣織」が人気なのが現状です。
博多織は絹で出来ており「呉服」ですが、柄は大人しめでどちらかというと実用の着物に近い雰囲気を持っています。
だから、ほぼ晴れの日にしか着物を着なくなった現代では、需要が小さくなっています。
博多織を現代で売るためには、どうする?
「博多」のブランディング
博多織を売るためには、大きく博多という町全体のブランディングから取り組む必要があると考えています。
例えば、江戸は「粋」。
京都は「雅」。
それぞれの町のイメージが一言で表現出来る。
では、博多は?
『私自身は、博多は「凛」だと思っています。博多という町のイメージ作りに、行政も含めて取り組んで行くべきです。』
博多のイメージがアップすれば、博多の伝統として受け継がれてきた博多織の価値も自然と上がり、ブランド化していきます。
博多織の中でも役割分担すること
同じ博多織企業でも「得意分野」が違う
私は、今年の5月に博多織の組合の理事長に就任します。そこで、博多織の中でも各企業のポジショニングを明確にしていきたい。
絵画の世界を例にします。絵画には、
①原画という1点しか存在しない本物
②複製した版画などの本格派
③ポストカードなどの模倣品
の3種類がありますよね。
どなたでも手に取っていただきやすい入り口、更に良いものを手に取りたい方に向けた商品、とにかくすごい本物。
それぞれに役割と価値がありお客様がいらっしゃるため、全て必要です。
私は、博多織の企業の中でも、①②③で得意分野が分かれていると考えています。
だからこそ、お互いの存在を必要とし、補い合いながら、みんなで博多織を押し上げていくような仕組みづくりをしていきたいと考えています。
「OKANO」独自の戦略
「伝統工芸品」ではなく「着物」市場で戦う
博多織には、2種類の訴え方があると思っています。
1つは「伝統的工芸品」としての訴え方。例えばいまは、博多織をネクタイや名刺入れなど、お客様が日常的に使える製品に落とし込んでいます。
もう1つは「着物」としての訴え方です。
「OKANO」は、主に後者の「着物」をマーケットにしていきたいと思います。
今でもコアな着物好きの中では、名前を出せば分かっていただけるくらい、「OKANO」は認知されています。
着物のマーケットは全体で3000億といわれていて、内3分の1は成人式の振袖が占めています。
私達は、残りの2000億の中でどう売り上げを出すのか?が、大事です。2000億のうち1%でも「OKANO」がシェアすれば、売り上げは20億。
そのための戦略をどう組み立てるのか?
博多織は、かつて幕府に献上されていたくらい素晴らしい品物です。
だからこそ「OKANO」は、“本物”の価値を持って「着物」市場の中で訴えていくことだと思います。
引き継ぎ、博多織の未来を創る
【経糸(たていと)に伝統。緯糸(よこいと)に冒険心】
縦と横の糸を交差させて織る博多織になぞらえて、いつも私が言っている言葉です。
長く伸びる経糸(たていと)は時間軸、織り込んでいく緯糸(よこいと)は空間軸を表しています。
その時代を統べて伝えること(伝統)と同時に、広い視野で新しいことに挑み続けること。大きくビジョンを描きながらも、その場で判断して実現して行くこと。
それが、私達の「在り様(ありよう)」です。
工場・工房見学へ
岡野社長にたっぷりお話を伺った後、取材陣は博多織の生み出される工場・工房に伺いました。
工場内に響く機械の音。
美しい絹の色糸。
静かに動きを繰り返す職人さん。
みなさん、各分野のお仕事のことを詳しく丁寧に教えてくださいました。
「OKANO」さんの社訓は【自立・寛容・調和】だと伺いました。
【自立】とは、情熱を持って専門知識・技術を深め、1人前に働くこと。 【寛容】とは、各人が持つ正義(ものづくりへの信念や情熱)を受け入れること。 【調和】とは、各人を認めながらも、同じ方向を向いてお互いを活かしていくこと。 |
みなさんにお話を聞きながら、この3つが自然と浸透していることを、記者は実感することが出来ました。
だからこそ、美しくて新しい博多織が創られるのだと。
今期のテーマは「縄文」
「OKANO」さんの今期のテーマは「縄文」だそうです。
「戦争が無く1万2千年も続いた特殊な縄文時代には、【共存・共栄】の知恵が詰まっている。
SNSでシェア(みんなで分ける)する文化がある現代人にとって、争いなく続いた縄文時代には、現代に引用出来る知恵があるだろう。」と、岡野社長は仰っていました。
このテーマはきっと、岡野社長が仰っていた【経糸(たていと)に伝統。緯糸(よこいと)に冒険心】
…つまり、
過去に学び、現在に合わせて形を変え、伝えていく。正に「OKANO」の「在り様」を現しているのだなあと、記者はこっそり感じたのでした。
・・・
「OKANO」直営店・アクセスなどINFORMATION
◆六本木アークヒルズ店
きものが中心であった頃の日本の素敵な暮らしを現代に再編集。きものから、工芸品、アート、喫茶などの日本文化を紐解いてゆきます。モノとコトに丁寧な意味付けをして、日本の伝統的な智恵と美意識を楽しみ、体感できる場です。
住所:〒106-0032 東京都港区六本木1-3-41 アークヒルズサイド1F
TEL:03‒6274‒6286
営業時間:11:00~19:00
定休日:水曜日
駐車場:あり(有料/割引サービスあり)
◆博多リバレイン店1F
博多の中心にほど近い、中洲川端駅から直結の店舗です。博多織も多く取り揃えております。帯締、帯揚、帯留などの和装小物も豊富に取り揃え、「博多織は凛」をテーマとしたモダンな着物スタイリングを提案。博多織をはじめ、全国の産地や作家の着物も紹介します。
住所:〒812-0027 福岡市博多区下川端町3番1号 博多リバレインモール 1F
TEL:092-283-8111
営業時間:10:30~19:30
定休日:1月1日(施設カレンダーによる)
駐車場:あり(有料/割引サービスあり)
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