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2019-12-14

「【つくる人】と【食べる人】をつなぐ物語 」ふくおか食べる通信 梶原圭三さん~福岡ものづくり絵日記 Vol.04〜


【福岡ものづくり絵日記とは?】

福岡在住のイラストレーター・尾野久子が「福岡のものづくり」に関わる人々を取材した絵日記です。色とりどりの人物たちがつくり出す商品・作品・サービス・ムーブメント。その背景の一端をイラストで綴ることで、より福岡の「もの」に親しみを覚えていただけますように…

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「【つくる人】と【食べる人】をつなぐ物語」

ふくおか食べる通信 梶原圭三さん 〜福岡ものづくり絵日記 Vol.04〜

 

10月24日(雨)

“ふくおか食べる通信” さんと今宿にあるシェアオフィス “SALT” さんがコラボしたイベント「Cooking Salt Bar」に行ってきました。

 “ふくおか食べる通信”とは、2ヶ月に一度、福岡県内の食べ物をつくる人を特集した記事と、その食べ物が旬の時期にセットで届く、食べ物つき情報誌。

今回、編集長の梶原圭三さんこと、“かじさん”にお話を伺いました。

みなさんは、食べ物を見て「誰が作ったんだろう?」「どんなこだわりがあるんだろう?」と考えたこと、ありませんか?

“ふくおか食べる通信” はその疑問に対する答えが、想像以上に詰まった情報誌。

農家さん・漁師さんのこだわりのほか、歴史秘話や家族のエピソードまで紹介されています。中には「そんなこともあったの!」というドラマも。

 それに加え、食材の良さを引き出すレシピや子どもが読んで楽しいイラスト付きのコラムもあります。

 もちろん味についてはお墨付き。記事を読むことで美味しさの理由を知り、想いに感銘を受け、舌だけでなく頭と心で味わう経験ができるのです。

それは「いただきます」の意味を、じんわり感じる瞬間でもあります。

 

1. 顔が見える関係性を築きたい。“知産知消” の考え方。

かじさんは、なぜ “ふくおか食べる通信” を始めようと思ったのでしょうか。

東京・大手メーカーで働いていたかじさん。生まれは朝倉市、実家は果物屋さんで、農業にはもともと興味があったそうです。

引退したら、野菜でも作って暮らそう。と考えていたかじさん。休日は農家さんの手伝いをするようになり、田植えイベントを自ら開催することもありました。

「都会にいる人たちも、心の底ではこういうものを求めているんだな…と感じました」

そこで何かいいビジネスモデルはないか…探していたときに出会ったのが “食べる通信”

2013年  “東北食べる通信” に始まり、現在は北海道から沖縄まで39団体が独自の通信を発行しています。面白いのは単に “こだわりの生産者” を徹底取材しているだけではない、というところ。

特に共感したのが “顔が見える” 関係性を築けることでした

食べる通信には読者参加型のSNSグループがあり、感想や質問も投稿できるので、距離がぐっと近づきます。

現地ツアーや茶摘みなどのイベントも開催。【つくる人】と【食べる人】が直接会って、ふれあうことができる…まさにこれが、求めていたものでした。かじさんは言います。

「顔が見えることで農業・漁業の現状について意識できる。自然を相手にしているという理解も深まるんですよ」

例えば、2019年3月、いちご農家さんの特集を組んだ時のこと発送を1週間後に控えたある日、竜巻が発生し、ハウスが損壊してしまいました。

「これでは、楽しみに待っている読者にいちごを届けることが出来ない…」

重い気持ちで読者コミュニティに現状を報告したかじさん。そこで何が起こったか…なんと、200件を超える応援メッセージが届いたのです。

農業を理解し尊重しているからこその、言葉。

実は、箱入り娘のように大切にいちごを育てた農家さんはショックで寝込むほど落ち込んでいたそうです。この言葉は、農家さんを勇気づけることになりました。

お互いを助け合える関係性を築けることが理想だったんです」

これは、まさにそれが実現した出来事でした。

 

2. “顔が見える” ってこういうこと?フラットな立場で交流できる面白さ

さて、本題のクッキングイベント。 “ふくおか食べる通信” で特集された食べ物を使って開催されました。

通常の交流イベントだと【つくる人】はトークする側、【食べる人】は聞く側、となんとなく立場が分かれていたりしますが、今回のイベントは全員で調理するので、そういった立場の違いがありません。

さらに参加者は “ふくおか食べる通信” に興味がある方や読者。普段全く料理しない方も参加されている上、細かくテクニックを教える “お料理教室” ではないため…

良い意味で適当さ加減が許されたり、ハプニングが起きたりと、なんだか小学生の頃味わった家庭科の時間やキャンプを思い出します。

何より、初対面の人同士でも“一緒に考えながら料理をする”ことで自然と一体感が生まれていました。

そして…一つひとつの食材の物語に想いを馳せながらの「いただきます」

“顔が見える” って、単純に嬉しいし、楽しいなと思いました。

 

3. 紡ぎ出す文章は、まるでドキュメンタリー小説のよう。

“ふくおか食べる通信”のコンセプトは【ふくおかのつくる人の物語】

実際に文章を読んでみると…

冒頭部分がセリフから始まったり、美しい月夜の描写だったりと、一気に物語に引き込まれます。

読み進めていくと、早朝の潮風の冷たい感触や船上での漁の過酷さなどがひしひしと伝わってきたり、かと思えば歴史を遡り太古のロマンを感じさせる内容になったり、それから幼少期のエピソードや就労してからの挑戦や苦労話と…リズミカルに展開し、なんだか情報誌というよりドキュメンタリー小説を読んでいるかのよう。

実は文章を書いているのも、編集長のかじさんです。こんなに人を引き込む文章は、どうやって生み出されるのでしょうか。

…ひとつは、何度も足を運んで取材を行うこと。

かじさんは短くて4ヶ月、長いと1年に渡って取材します。食べ物ができていく過程をていねいに追うことで、読者にもその月日の尊さを伝えることができるんですね。

取材中、かじさんは農作業の合間のふとしたタイミングで、色々な質問をポンポンと投げかけていきます。

「それは何をしているんですか?」という素朴な疑問から、どんな食べ方がオススメなのか、台風の影響はどうだったか、奥様との出会いはいつなのか…と、様々な角度からじっくりと【つくる人】の物語を紐解いていくのです。そのおかげか、かじさんはすっかり打ち解けています。

ところで、この聴く力はどうやって培われたのでしょうか。

かじさんは学校卒業後、営業職に就きました。営業さんはお話が上手なイメージがありますよね。対してかじさんは“超絶人見知り”。「しゃべらなきゃ!」というプレッシャーでいっぱいでした。

でもある時気づきます。

取引や商品・利益の説明をしていた時には反応が薄かった社長が、社長自身のこれまでについて質問した途端、饒舌に色々なことを話してくれたのだそうです。

「そうか、聴けばいいんだ!」

ビジネスライクな取引の話ではなく、苦労話や努力した話に耳を傾けてくれるかじさんに、多くの取引先の方が信頼を寄せたのはいうまでもありません。

それからめきめきと営業成績を伸ばし、転職後も同じ営業畑でステップアップしていきます。

転機が訪れたのは35歳の時。

ずっと第一線を走ってきたかじさんも、マネジメント業務を任されるようになりました。

「僕、マネジメントできなかったんです」

自分がやれたんだから、みんなもやれる。と、部下に厳しく接することが多かったかじさん。

「今だったらパワハラですよね(笑)人と人は違うのに、時代も変化しているのに…それに気づけなかった」

このままではいけない、と経営を学ぶため大学院に入ります。そこで “本” との出会いがありました。実は幼い頃から本を読むのが大嫌いだったというかじさん。

「大学院でビジネス書を読まされていたら、自然と読む癖がついたんです」

ビジネス書から始まり、社長の自伝や歴史上の人物の本を読み、マネジメントや生き方におけるヒントをもらいました。また、社内ではこぼせない気持ちを分かち合う仲間ができたことも大きかったと言います。

それから部下に対する接し方も変わり、担当エリアの業績も伸びていったそうです。

「その頃好きになったのが司馬遼太郎さんです」

言わずと知れた歴史小説家。司馬さんの文章は、読むと映像が浮かんでくるような描写。そして、どんな偉人でも、一人の “人間” として見つめ、陰も日向も描いている…そんな文章を書きたい。

ふくおか食べる通信を読んでいると「えっ、そんな重たい出来事も書いてしまうんですか?」と思うシーンも出てきます。それで物語に深みが出ることも確かですが【つくる人】も、よく載せていいって言ったなぁと…

でも、それができる理由がわかった気がします。

かじさん自身、第一線を突っ走り、結果を残し、つまづき、悩み、再出発を図った過去があるからこそ、人の人生に耳を傾ける姿勢は、とても誠実。

またそれだけの経験が詰まった佇まいに「この人が書くなら」とみなさんも信頼を寄せているのだろうなと思いました。

だからかじさんが綴る【つくる人】の物語に、多くの人が心を動かされるのでしょう。

4. この物語の続きは…

さまざまな【つくる人】の物語を綴ってきたかじさん。これからの未来を、どのように思い描いているのでしょうか?

子どもは好奇心旺盛で吸収力も高い。その時期に農業・漁業に触れることでずいぶん意識は変わってくる、とかじさんは言います。

私も小学生の頃、田植え〜餅つきと、米作りを体験したことがあります。子ども心に「お米ってこうやって出来るんだ!」と学べましたし、どろんこになって農作業をした記憶は鮮明に残っています。

「家に帰って親に話すでしょ。親も子どもから学ぶんです」

食べ物を自分でつくるという経験。汗を流しながら得た達成感。そして、それを得意気に話す子どもたち…

 

ITが発達した今だからこそ、あえて紡いでいきたい【つくる人】と【食べる人】をつなぐ物語。きっと、もっとたくさんの人たちを巻き込んだ物語として展開していくんだろうな…

それは、想像しただけで楽しくなるような未来でした。

 

“ふくおか食べる通信”ってどんなもの?私も購読したい!という方へ!

詳しくはコチラ>>

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【イラストレーター 尾野久子】

福岡県小郡市出身。
幼少の頃より絵を描きはじめ、学生時代は独自でいろいろな画材を試す。

卒業後、制作会社に勤務。
在職中は映像制作をメインに活動、絵コンテ制作から撮影・編集作業まで行い、
情報を効果的に伝えるストーリー構成力を磨く。

ウェディングでは招待状からなれそめ絵本、アニメーションまでオリジナルの商品を多数展開。
その他ショップやサロン、医療施設の名刺やパンフレットなどの宣伝物を手がけ「想いを形にする」ことの大切さを感じる。

現在は、フリーのイラストレーターとしてイラストを描き、
静止画から動画までさまざまな媒体に展開しています。

https://lifetalesbyh.com


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