磁器彫刻家・森永英一郎さんの「人生を映し出す器」〜福岡ものづくり絵日記 Vol.01〜
【福岡ものづくり絵日記とは?】
福岡在住のイラストレーター・尾野久子が「福岡のものづくり」に関わる人々を取材した絵日記です。色とりどりの人物たちがつくり出す商品・作品・サービス・ムーブメント。その背景の一端をイラストで綴ることで、より福岡の「もの」に親しみを覚えていただけますように…
Vol.01 「人生を映し出す器」
〜英一郎製磁 磁器彫刻家・森永英一郎さん〜
2019年7月10日(雨)
だいぶ前からお話を聴きたいと思っていた、福岡県春日市にある「英一郎製磁」森永英一郎さんの工房にお邪魔しました。
長崎県波佐見焼の窯元にルーツを持ち、学生時代に古代彫刻・ギリシャ彫刻に深く心を揺さぶられた英一郎さんは、磁器に彫刻的な表現を施した作品を作り続けています。
その繊細な表現はどのようにして生まれるのか?その秘密を知りたくてお話を伺いました。
1.自然を「模す」ことの難しさ
英一郎さんの作品の中で、私が心を奪われたのはお骨壷。
展示会でも多くの人が思わず足を止め、食い入るように見つめていきます。
まず、誰もが頭に浮かぶ疑問だと思いますが「どうしてこんなに繊細な表現をわざわざしようと思ったんですか?しかも磁器で」ということ。
あっさりと言ってのけた英一郎さん。でも、言葉はシンプルですがその実、一筋縄ではいかないのです。
英一郎さんの作品は写実的ですが、自然の形そのままというわけではありません。自然界にある形をプロダクトとして再構築する必要があるのです。
まず、じっとみる。デッサンしてみる。考える。
今度は、分解してみる。また考える。
それでもなかなかピンとくる構造が思い浮かびません。
ここまでくると、頭の片隅に置きながら他の作業を進めたりします。
そして2ヶ月経った頃…
ふとした瞬間に閃くのだそうです。
あの息をのむほど繊細な構造は、こんなに長い時間試行錯誤した結果なのですね。
2.一度作陶の世界に入ると、なかなか出てこない英一郎さん
構造が固まり、スイッチが入った英一郎さんは完全に作陶の世界に入り込みます。
時が経つのも忘れて没頭するので…
…ということもよくある話。
動き出した作業の手は止められないので、脱水症状にならないようにこんなものまで作ってしまうほど。
そんな英一郎さんを外の世界に連れ出してくれるのは決まって愛猫のマツなんだそうです。
ものづくりに対する執念と凄まじい集中力で取り組む毎日に、ひとときの癒しを与えてくれる存在です。
3.「人生は、この器のように美しかったんだろうな…」
このお骨壷はひとつ、ひとつ、注文が入ってから作り始めます。それは、繊細な形だから型で量産できない、という理由だけではありません。
英一郎さんは「磁器彫刻家」です。お話を聞いてみると…
古代から人々は、その人が生きた証として、偉業や思い出を刻み込むように石を彫り込んできました。それこそ、気が遠くなるほどの時間をかけて…
今、英一郎さんがやっていることはまさに同じこと。
ひとりひとり、人生の物語があります。
嬉しかったこと、哀しかったこと、苦労したこと、幸せに思えたこと。
さまざまな出来事を経験しながら紡がれた人生は、まるで雨や風に打たれながら咲く花のようにも思えます。
英一郎さんの作ったお骨壷を見ていると思います。
「この中に眠る人の人生は、きっと美しかったんだろうな」と。
お骨壷づくりを「使命」と言い切る英一郎さん。
お話を聞いて、その言葉の裏にある想いの強さを感じました。
【イラストレーター 尾野久子】
福岡県小郡市出身。
幼少の頃より絵を描きはじめ、学生時代は独自でいろいろな画材を試す。
卒業後、制作会社に勤務。
在職中は映像制作をメインに活動、絵コンテ制作から編集作業まで行い、
情報を効果的に伝えるストーリー構成力を磨く。
ウェディングでは招待状からなれそめ絵本、アニメーションまでオリジナルの商品を多数展開。
その他ショップやサロン、医療施設の名刺やパンフレットなどの宣伝物を手がけ「想いを形にする」ことの大切さを感じる。
現在は、フリーのイラストレーターとしてイラストを描き、
静止画から動画までさまざまな媒体に展開しています。
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