【福岡ものづくり絵日記とは?】
福岡在住のイラストレーター・尾野久子が「福岡のものづくり」に関わる人々を取材した絵日記です。色とりどりの人物たちがつくり出す商品・作品・サービス・ムーブメント。その背景の一端をイラストで綴ることで、より福岡の「もの」に親しみを覚えていただけますように…
Vol.02「キッチンから生まれる宝物。たのしい循環生活を世界中に!」
2019年9月17日(晴)
「たくさんの夢があつまる未来都市」アイランドシティにやって来ました。
今回お話を伺ったのは、循環生活研究所(以下、じゅんなま研)の たいら 由以子さん。書いて字のごとく「“資源が循環する生活”を当たり前にしたい」という想いでさまざまな活動をされています。

例えば、毎日の食事で出る生ごみ。これをじゅんなま研が開発した“ダンボールコンポスト”に入れると…
栄養たっぷりの堆肥に大変身!
それを土に混ぜて育てると、甘みが強くて香り高い、みずみずしい野菜ができるのです。
じゅんなま研の皆さんは定期的にコンポストの中身を交換しており、取材を兼ねて私も体験させていただきました。
1.生ごみは地域に眠る宝物であり、大切な“資源”
実は生ごみの90%は水分なんだとか。日本では年間2800万tもの生ごみを焼却するために多くのお金とエネルギーが使われています。たいらさんは言います。
「すごくもったいないですよね」
そこで、じゅんなま研が開発した、初心者でも簡単に堆肥づくりができる“ダンボールコンポスト”
始めは、家庭菜園や企業で畑を持っている方々を中心に広めていったのですが、それだと限られた人たちしか実現できず、生ごみの処理量に劇的な変化は起こりませんでした。
「ローカル・フード・サイクリング」の取り組み
そんな時、福岡市東区にあるアイランドシティと繋がりができました。
アイランドシティは先進的モデル都市とも言われ、創エネ・省エネのまちづくりをコンセプトにさまざまな取り組みを行っています。
このことから、それまでの「自己完結型」から「コミュニティ型」循環生活モデルが実現しました。
活動に賛同してくださった家庭にコンポストを置いてもらい、週に1度中身を交換。交換サイクルが短いので臭いや虫も気になりません。
その後はアイランドシティ内“コミュニティガーデン”で分解を促し、ガーデンの土に混ぜます。育った野菜は交換回数に応じてプレゼントしたり、マルシェを開いて販売したり。

これなら、家に菜園がない方でも、いそがしい方にもできる「循環生活」。
このサイクルを「ローカル・フード・サイクリング」と名付けています。
2.いざ、循環生活を体験!
午前9時、朝の静かな街中を、ベロタクシーとカーゴバイクに乗って6拠点の交換場所を回ります。
家々の区画が広く、洋風な建物も並んでいるため、なんだか外国にいるような気分。また、このロゴや乗り物もうまく景観に溶け込むデザイン。はたから見ると…

そうやって認知度を上げていったのだそうです。
交換場所で待っていると…
ひと組の親子がやってきました。コンポストを受け取り、中身を交換します。

次の交換場所では、野菜をプレゼント。
交換回数5回で新鮮野菜と交換できるそうです!皆さん口を揃えて言います。
自分たちのキッチンから出た生ごみが、美味しい野菜になって還ってくる…嬉しいですね。
しかし、こうして新鮮な無農薬野菜を食べられることは、現代ではとても贅沢なことなのです。
3.「やりたい」という気持ちと使命感に突き動かされて
たいらさんがこの活動を始めたのは、お父様の病気がきっかけでした。
25年前、病に倒れたお父様。無農薬野菜を食べる自宅での食養生を選択しましたが…
無農薬野菜がなかなか手に入らないという事実に直面。

「なぜ、こんなに無農薬野菜が手に入らないのだろう?」
「いつからこんな世の中になったのだろう?」
込み上げてくる焦りと、怒り。
でも、たいらさんがあらゆるコネを使い必死に動いたおかげで、お父様の命は2年、伸びたのです。
それからたいらさんの人生の価値観は大きく変わりました。
平成9年「循環生活研究所」を立ち上げます。活動のキーアイテムとなったのが「ダンボールコンポスト」。
通常のコンポストで失敗しがちなのが、水分過多による臭い、臭いから虫が寄ってくる悪循環。目指すサイクルの実現のためには「多くの人が」「簡単に」「都会でも」取り組めるものでなければ…!
研究に研究を重ね開発したのが、ダンボール箱と中の基材で水分を吸い、乾かして排出する仕組み。ベランダに置いておくだけで堆肥ができるため、電気もいらない。これなら、多くの人に受け入れてもらえるはず!
でも、ここからが大変でした。
当時、2人の幼子を抱える主婦だったたいらさん。加えて、元来人前に出ていくのは、大嫌いだったそうです。
今までになかったものを創り出す開発や、組織としてのミッション・人間関係の構築には苦労が伴います。ワークショプや講座を開くも、伝わらない。研究や開発が思うようにいかない…
体調を崩すことも多かったようです。
そんなにまでして、彼女を突き動かしたものは何だったのでしょうか。
それでも「やりたい!」という気持ちの方が強かったのです。
自然の摂理とかけ離れた現代の生活。大量にモノが作られ、消費され、廃棄される。利便性を重視した結果、土が病み、食生活も乱れています。
たいらさんは、

4.想いは世界と繋がっていく
3つ目の拠点で、南米からやって来た “JICA(独立行政法人国際協力機構)”の研修生たちと合流。
今度は彼らが運転します。みんなで声がけしたりして、和気あいあい。なんとも陽気な国民性ですね。

彼らに聞くと、こういったコンポスト回収事業は自国でも行われているそうです。

※(2019年9月現在、アイランドシティでは無料で取り組みに参加できます)
国によって政策や価値基準も違うのでやり方もさまざまですが「あるものを使う」という考え方は日本の「もったいない精神」と通じるものがあります。
全ての拠点で交換を終え、ガーデンへ。回収した生ごみを堆肥に変えるための作業をします。
音楽をかけながらの作業。もう身体がリズムを刻んでいます。さすがラテンのノリ…

また、堆肥の分解を早めるには、定期的に土を上下に切り返さなくてはなりません。
ガーデンにはアオサや松葉、雑草を使ったコンポストもあり、今度はそちらで切り返しを実践。このコンポストもうまくできていて、木枠を組み替えながら切り返しができるのです。
ある程度土を移したら、踏んで踏んで…

作業が終わると、ガーデンで育てたハーブを使ったハーブウォーターで一息。
働いた後の爽やかな気分と、香り高いお水が、身体をすみずみまで潤すようです!!
そして窯でピザを焼き、お昼ご飯。ピザにのせた野菜も全て、このガーデンで採れたもの。甘くてジューシー、野菜の香りが口のなかいっぱいに広がります!
「こんなに野菜が美味しいなんて… !!」
堆肥を使って育てた野菜のうま味というものを実感しました。

こうした循環生活「ローカル・フード・サイクリング」の範囲は半径2km。
これはたいらさんが父の闘病中、子どもを抱えながら行動できた範囲と同じ。
たいらさんは言います。「すべてを“自分ごと”と思える範囲なんです」
この範囲なら子ども達も、キッチンから出た生ごみが循環し、美味しい野菜になっていく過程を“自分ごと”として経験できますね。

…ところで南米からやってきた皆さんは、日本に滞在している1ヶ月の間、食事で出た生ごみをダンボールコンポストに入れて堆肥づくりを実践していました。
どうなってるかな?開けてみると…
「とっても上手にできています!」とのお言葉が。

「ここで学んだことは、自分の国にきちんと持ち帰って普及していきます」と、代表者が感謝を込めてたいらさんたちに挨拶。
そして南米から来た仲間たちは、バスに乗って帰っていきました。

「半径2km」という、ちいさなコミュニティで行われる循環生活。
でも、たいらさんたちの想いはその範囲を超えて…
地球の裏側まで広がっていくんですね。
ご家庭から始められる「ローカル・フード・サイクリング」。ご興味がある方はぜひじゅんなま研さんのHPへ
誰でも参加できるマルシェやイベント情報はこちら!詳しくはコチラ>>>

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【イラストレーター 尾野久子】
福岡県小郡市出身。
幼少の頃より絵を描きはじめ、学生時代は独自でいろいろな画材を試す。
卒業後、制作会社に勤務。
在職中は映像制作をメインに活動、絵コンテ制作から編集作業まで行い、
情報を効果的に伝えるストーリー構成力を磨く。
ウェディングでは招待状からなれそめ絵本、アニメーションまでオリジナルの商品を多数展開。
その他ショップやサロン、医療施設の名刺やパンフレットなどの宣伝物を手がけ「想いを形にする」ことの大切さを感じる。
現在は、フリーのイラストレーターとしてイラストを描き、
静止画から動画までさまざまな媒体に展開しています。
https://lifetalesbyh.com