【第8回】-まだ、心の整理が…【九州北部豪雨災害のあと。東峰村・朝倉市特集】
「思い出した。この、梨の木。この木たちがあるから、黒川に帰ってきたんやった。」
梨の木に触れながら、お話しされる林さんは…少し寂しそうで、だけど、これまで4代に渡って育ててきた梨を大切に思っている様子を、記者に教えてくれました。
第8回【コロコロ梨工房 林泰(はやしやすし)さん】
東峰村、朝倉市を特集でお伝えする企画の第8回目に私達がお話を伺ったのは、「コロコロ梨工房」の林 泰さんです。
まだ、心の整理がついてない
「今回の豪雨で畑の8割は駄目になってしまって、無傷なのは残りの2割。

山の一部がごっそりはがれて落ちている下に、メインの梨畑があったそうです。
今年は何とか、盆後の出荷用に収穫は出来たけど、無事な畑だけでは生活が成り立たないからこの先は考えないといけない。
5年前にもこの地域では豪雨での災害があったけど、今回の豪雨の被害は比じゃない。
3日間家に閉じ込められたまま動けず、雷もすごかった。
もし次に、今回の半分程度でも雨が降ったら…もうまずいかもしれん。
復旧するのに5年かかると思う。その後の、復興はもっと。
普通、公共の場所から取りかかって行くから、畑に手をつけてもらえるようになるまでに、何年かかるやろうか。
梨は収穫まで10年、短くても5年と言われているから、また1から始めるのは難しいかもしれん。」
「まだ…心の整理がついてないんよ。見せられるものもまだないし、正直、話が出来る状態でもない。」
林さんがご自身の率直なお気持ちを話してくださった取材の日は、豪雨から約半年が経っていました。
被害に遭っていない私達にとっては、豪雨のことを忘れるのに十分な時間かもしれません。
だけど林さんの言葉から、現地のみなさんにとっては…必死な毎日を何とか過ごしていた時間だったことを、記者は改めて思い知りました。
新しく始めようと思っていることがある
「山の上は、もう一度雨が降ったら同じように被害を受けるかもしれない。だから、今度は下に畑を作ろうかと思っとるんです。ブドウを育ててみようかなと。
(今回取材した)黒川地区に元々108軒くらいあった家の中で、戻ってきたのは26軒くらい。
下に畑があれば、みんなが集える場所になるかもしれんなとも思って。」
心の整理がついていない中でも、被害に合われたみなさんには当然、次のことを考える必要があります。
「新しくやりたいことがあるんよ。」
だけど記者は、取材の途中にこの言葉が林さんからお聞き出来たとき、心の中でそっと…嬉しく感じました。
それは、前を向く、林さんの力強さを感じることが出来たからかもしれません。
1代目が植えた、90歳の梨の木!
取材中、みんなで林さんの無事だった梨畑にお邪魔しました。
そこには、太くて堂々とした、立派な梨の木が待っていました。何と御年90歳!
「この梨の木は1代目が植えたもの。移民でハワイに行っていた1代目が『これからは日本でもフルーツを食べるようになる。』と持って帰ってきて、この場所に梨を広く広く、植えたんです。
今でも現役で、1シーズンに1000個くらい実をつける。1kgもある大きさのものもあって、子どもが喜ぶんよ。梨狩りするなら、実がおっきい方が嬉しいけん。」
九州北部豪雨災害の際には、土砂が90歳の梨の木で止まって、林さんの自宅に流れ込むのを防いでくれたとも仰っていました。
それにしても…立派な出で立ちです。
梨畑でのお話中、ふと林さんが言われた言葉が、心に残りました。
「思い出した。この、梨の木。この木たちがあるから、黒川に帰ってきたんやった。自分より先に梨の木がここにおって、自分も育ててもらった。」
梨の木に触れながら、お話しされる林さんは…少し寂しそうで、だけど、これまで4代に渡って育ててきた梨を大切に思っている様子を、記者に教えてくれました。

記者の腕を幹に回してみても、まるで届きませんでした…!
引っこ抜いて下の畑に持って行くことは出来ないので、この先、90歳の梨の木をどうするか…林さんは悩まれているそうです。
「私も、食べてみたいなあ。」
だから、そんな言葉が記者の口からつい、ポロリと出てしまいました。
自分以外に、指導してくれる人が増えたら嬉しい
「豪雨から半年が経ったいま、みなさんにしてもらえたら嬉しいことはありますか?」
と、林さんに直接伺ってみました。
「自分たちにも生活があるので仕事をしないといけないけど、ボランティアに来てくださったみなさんに指導をしている時間が長いと、自分の仕事が進まない。
だけど梨は、専門的な知識が必要で、育てるのが難しい果物。
月に1度でも、ここに来て仕事を見て覚えることを続けてもらって…指導をする側の人が増えてくれたらなと、思ったことがあります。」
・・・
これまで、【復旧】と【復興】の違いについて考えたことは、1度もありませんでした。
被害を受けた場所を元の状態に戻す【復旧】の先には、お金を稼ぎ、生活を豊かにするための【復興】が必要です。
【復興】には、より専門的な知識と、長い年月が必要になることにも…初めて気がつきました。
だからこそ、みなさんの話を聞き、受け止めて考えることを、続けなければ…と、記者は感じました。
「私達に何ができるか?」の答えは、きっとその先にあるのだと感じたんです。
「コロコロ梨工房」アクセス・住所・営業時間など
住所:〒838-0072 福岡県朝倉市黒川3799-3
TEL:0946-29-0074
※現在は果物狩りは行っておりませんので、ご了承ください。