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2022-11-30

西田商運|豚骨ラーメンのスープがバイオディーゼル燃料(BDF)に!とんこつカット君


こんにちは、福岡県の魅力発信サイト「もっと福岡」ライターの室井です。

突然ですが「何味のラーメンが好き?」と聞かれれば「豚骨!」と答える福岡県民は多いはず。何を隠そう、私もその1人です。

その「福岡県民が大好き」な豚骨ラーメンのスープが、ある福岡県の企業の手により、トラックの燃料になっているって知っていましたか?

「えっ!」って驚きですよね!

今回の記事でご紹介するのは、福岡県糟屋郡新宮町に本社を構える「西田商運株式会社」さん。生鮮・チルド・日用品などをドラックストアや飲食店などに向けてトラックで配送する運送会社です。

「西田商運」さんでは、「自社トラックの台数が増える程、CO2の削減に取り組まないといけない」という意識のもと、グループ会社の「有限会社ヘリオス」でバイオディーゼル燃料(BDF)の製造を行っています。

そのバイオディーゼル燃料を生み出す製造技術のひとつが、今回ご紹介する「とんこつカット君」なんです!

今回は「とんこつカット君」を発明した「西田商運」代表取締役会長であり「福岡のエジソン」という2つ名を持つ、西田眞壽美さんにお話しを伺いました。

とんこつカット君とは

「とんこつカット君」 は、ラーメン店のシンク下に設置し、飲み残しのラーメンスープを流すと、分離槽でラードと水が分けられ、機械の中にある18L缶にラードのみが回収される仕組み。

実際の「とんこつカット君」

このラード(動物性油脂)をラーメン店から回収し、自社精製プラントに通すことで、バイオディーゼル燃料が製造されます。

「とんこつカット君」が生まれたのは約10年前の平成25年。キッカケは、飲食店を経営するお知り合いから「チャーシューをゆがいた汁の処理にお金がかかって困っている」と相談を受けたことだったそう。

相談を受けたその時すでに、植物性のバイオディーゼル燃料の製造に成功し、継続使用の実績を積み重ねていた西田会長。

飲食店から使用済の食用油(植物油脂)を回収し、製造プラントでバイオディーゼル燃料に

そこで「植物性油脂が出来るなら、動物性油脂も同じように出来るのでは?」と閃き、相談者の目の前で汁から燃料を作る製造テストを行ってみたところ、なんと成功。

「チャーシューをゆがいた汁が燃料になるなら、同じく動物性油脂のラーメンの飲み残しのスープからも出来るのでは?」

その発想から実験を繰り返し、ラードから不純物を取り除いてバイオディーゼル燃料を生み出す仕組みを完成させた西田会長。

植物性油脂(菜種油、ひまわり油、大豆油、コーン油などを原材料とする)のバイオディーゼル燃料は様々な場所で製造されていますが、動物性油脂から作れるのは「西田商運」さんのみで、実用新案も取得し、世界でひとつの技術として役立てられています。

動物性油脂からバイオディーゼル燃料を精製する技術は世界でも珍しく、アメリカの大学でも論文として発表されたそうです

とんこつカット君のメリット

通常、飲食店には「グリーストラップ」という、排水に含まれる湯分やごみを直接下水道に流れないように防止するための装置が設置されています。

グリーストラップ

しかし、このグリーストラップには油が溜まりやすく、悪臭や害虫が発生する原因となっています。また、排水管に油が付着し、詰まりの原因になることも。

さらに、飲食店で発生した汚泥は、一般ゴミと一緒に捨てることはできず、産業廃棄物の処理ができる許可業者に有料で処理をお願いする必要があります。

しかし「とんこつカット君」を設置すれば、ゴミとして捨てられ、廃棄にお金がかかっていたラーメンの飲み残しスープは「西田商運」さんにより無料で回収。悪臭やつまりの原因である油の「グリーストラップ」への流入も少なくなります。

ラーメン店にとっては、清掃管理が楽になり、廃棄にかかるコストも0に。

ラーメンの飲み残しスープから生まれたバイオディーゼル燃料は資源循環型で環境にも優しく、「とんこつカット君」は、ラーメン店にとっても、地球環境にとっても、とても嬉しい仕組みなんです。

バイオディーゼル燃料を作り出したキッカケ

西田会長がバイオディーゼル燃料の開発に取り組んだのは、15年ほど前、当時の小泉総理大臣がバイオ燃料の原料となるサトウキビやトウモロコシを「緑の油田」と例えたことに感銘を受けたのがきっかけでした。

「その後、僕がバイオディーゼル燃料を作っている夢を見たんですよね。お告げみたいに」

と、西田会長。当時、自社配送トラックには化石燃料のみを使用しており、「うちも取り組まなければ。孫やその先の世代へ資源と自然を残したい」という使命を感じたそう。

「中学を卒業した16歳からトラック一筋。だからバイオディーゼル燃料の知識なんて一切なかったけど、独学で勉強して挑戦したんです。まずは家にある天ぷら油とペットボトルと卓上コンロを用いて、実験することからスタートしました」

会社にある器具で実験の様子を見せていただきました

そこからは実験の繰り返しの日々。晩酌のビールを眺めていて閃いたアイディアから製造実験をしてみたり、晩御飯のしゃぶしゃぶを見ては油と水が分離する仕組みを考えてみたり……。

何度も壁にぶつかりながら手探りで実験を進め、独自の製造マニュアルを生み出した西田会長。

西田会長の生み出したバイオディーゼル燃料の作り方の製造マニュアルは、お孫さんの描いた自由研究の資料のみで、あとは頭の中にあるそうです(!)

「壁にぶつかったときほど『なぜ?』と自分で考えて、行動してみます。身体が動くんです。 周りからは『油バカ』『油ボケ』 って言われたりもしました。完成するまで、周りには理解してもらえないことの方が多いよね。最初にやる人間ってそういうものだから」

と西田会長は語ります。

1,500回以上の挑戦を得て生まれた独自の技術。「福岡のエジソン」という西田会長の2つ名は、成功するまで何度でも挑戦する姿から名付けられたんですね。

CO2削減への取組み実績

バイオディーゼル燃料の精製プラント

約20年前に始めた、飲食店などから集める廃食用油を利用した植物性油脂のバイオディーゼル燃料の製造。

そして約10年前に始めた、動物性油脂のラーメン店の飲み残しのスープを用いたバイオディーゼル燃料の製造。

上記2つは精製後、最終的にブレンドされ、同じくトラックの燃料として使用することが出来るそうです。

「西田商運」本社内にあるバイオディーゼル燃料の給油機

現在「西田商運」さんでは、自社の精製プラントで1日に約1,300リットルのバイオディーゼル燃料を製造し、約170台保有するトラックの約4割の燃料として使用しています。

また、宮崎県の旧高千穂鉄道で走る人気の観光トロッコ列車「グランド・スーパーカート」へ燃料供給を行うなど、活動の幅をどんどん広げています。

未来へ資源を残す

「日本には四季があって自然がとても美しいよね。この光景を、孫やひ孫の代まで残していきたい。そのためにCO2を削減するのは責任であり、使命です。まだまだバイオディーゼルを作る技術を進化させていきたいと考えています」

と西田会長。

「飲み残しの豚骨スープを全て、バイオディーゼル燃料に替えていきたい」

との夢を語る姿には、まさに「福岡のエジソン」の2つ名にふさわしい研究開発の精神を感じてしまいました。


「あのトラックもこのトラックも、じつは豚骨スープで走ってる」

福岡でそんな光景が当たり前になる未来も、近いかもしれませんね!

「もっと福岡」も、そんな未来をワクワクと楽しみに、これからも取り組みを応援していきたいと思います!

西田商運|インフォメーション

住所: 〒811-0119 福岡県糟屋郡新宮町緑ヶ浜3-3-23

TEL: 092-963-1301


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